中国の食べ物

上海蟹は上海が本場ではない(本場の陽澄湖で上海蟹を食べた話)

投稿日:10月 7, 2017 更新日:

10月に入ると上海に月餅と上海蟹の季節がやってきます。日本では中秋の名月を眺めながらお餅の団子を食べる習慣がありますが、中国ではお餅ではなく御菓子のような月餅を食べ、またそれを贈りあう習慣があります。

一方上海蟹はこの季節、生殖時期を前に雌、雄の順に食べごろになります。スーパーの魚売り場にも上海ガニを1匹ずつ十字に紐で縛って売っています。色は深い緑色のように見えます。スーパーで売っているものは一匹当たり10元ぐらいからありましたが、同じものがレストランでは調理したものが一匹50元から100元ぐらいしていました。調理と言っても蒸すだけなのですが。

さて、上海蟹の味はどうかと言いますと、どこのお店でも直前まで生きていたものを蒸して出してきますので勿論それなりに美味しいのですが、食べるところが少なく、正直言って物足りない感じがします。日本の毛ガニやタラバガニを食べ慣れている人が食べると欲求不満になり、日本のカニが食べたくなります。カニ自体が小さくて沢蟹を大きしたようなものですから、足には肉を取り出して食べるほどの量はありませんので、足はくわえて中の汁を吸う感じになってしまいます。甲羅の中の味噌か足の付け根の部分を主に食べることになりますので、カニ味噌の濃厚でくせのある味が苦手な人には、あまりお勧めができません。

おまけに、食べ方があって、「足を先にもいでから、甲羅をはずして次に…」と食べ慣れている人の講釈を聞きながら食べているとそのうち面倒くさくなってしまいます。

本場の陽澄湖で上海蟹を食べる

日本では上海蟹と呼んで有名ですが、地元では「大閘蟹」(dàzháxiè)といいます。会社の中国人スタッフの説明によると、大閘蟹と正式に呼べるのは上海近くの陽澄湖で収穫されたものだけを言いそのほかはそう呼ばないのだそうです。陽澄湖産でもないのに大閘蟹として安く出回っているのはニセモノだそうで、本物にはカニのはさみのところにオレンジ色のタグがついているとのことでした。そういえばスーパーにタグの付いたカニが高い値段で売られているのを思い出しました。しかし、それも怪しいもので、普通のカニを陽澄湖まで運び、一旦湖の水に漬けてから大閘蟹タグをつけて売っているものも多いということですので、信用できません。

陽澄湖の姿

一度工場の仲間で仕事が終わってからこの本場の陽澄湖まで上海蟹を食べに行こうということになりました。陽澄湖は江蘇州の蘇州市にある湖で、霞ケ浦より少し小さいぐらいの広さがあります。上海市街から車で2時間程度かかりますが、私の勤務している工場は上海市の中でも北の外れの江蘇州に近接している嘉定区でしたので1時間もかからずに行くことができました。

 

ワゴン車に中国人と日本人の8人が乗って、終業後の暗い道路を一路陽澄湖に向かいました。目的地は陽澄湖のほとりにある観光地で、カニを水揚げしている桟橋があって、周辺に上海蟹を食べさせるレストランが建ち並んでいるところとのことでした。そこはカニのとれる秋だけが大勢の人で賑わい、その他の季節は店も閉じて人気のないゴーストタウンのようになるとのはなしでした。

そんな話を中国人スタフから聞きながら車に揺られて1時間ほどでついたところは、暗い中にポツンポツンと電灯の光も薄い人気のない建物が立っているだけの寂しいところでした。11月になっているとはいえまだシーズン中のはずですが、このうらぶれた雰囲気は何だろうかと思いながらも、多分昼の間は大勢の人で賑わっているのだろうと思いなおし、車を降りて中国人スタッフの後に従いました。

パチンコ店のようなレストラン

 

車をつけた建物は3階建てで、日本のパチンコ店を思わせるような外観でどの階も客にカニを食べさせる食堂のように見えましたが、薄暗いのではっきりとはわかりませんでした。

中に入るのかと思いきや案内役の中国人スタッフはその建物の脇を抜けて建物の裏の湖に出ました。湖には木の板を連ねた桟橋のようになっていて、その先に湖にまるで浮いているような平屋の建物が見えました。桟橋の下は生簀のようになっていてカニがたくさんいるようでした。中国人スタッフは店の人と生簀の中のカニを指さしながら何やら交渉しています。これから調理するカニと値段の折衝をしているようでした。

レストラン裏の生簀

 

橋の先の建物の中は複数の区切られた食堂になっていて、私たちはその1部屋の大きな丸テーブルを囲むことになりました。窓はガラス戸がなく月の明かりが湖の水面に揺れているのがみえるだけで辺りは暗闇で物音ひとつしません。他のお客がひとりも見えず我々だけのようなので、なんとなく寂しい雰囲気で宴が始まりました。カニが調理されて運ばれてくるまでのあいだ、老酒を飲みながらみんなでおしゃべりをしているうちに酔いが回ってきて、だんだん雰囲気が和み、丁度いいタイミングで上海蟹が運ばれてきました。そこで中国に10年以上いる日本人スタッフのB氏が正しい上海蟹の食べ方を面白おかしく披露しましたので、初めてのため上手くカニを解体できない人をからかいつつ座は多いに盛り上がったのでした。


役人がごちそうしてくれた最高級の上海蟹

私の勤務する上海工場がある工業団地を管理している役所の幹部が1回この季節に高級なレストランで上海蟹をご馳走してくれること慣例になっていました。私が赴任した年も、工場の日本人の幹部3人と通訳を兼ねた中国人スタッフひとりが招待されました。その中国人スタッフによると、調理されるカニはそのレストランで通常客に出すものではなく、その役人がわざわざ陽澄湖から取り寄せ、レストラン側に調理させた最高級の上海蟹とのことでした。中国の役人の面子がかかっているように感じました。

出されたカニは少し大振りで味もかなりのものでした。それまで本場の陽澄湖で食べたものを含めて何回か上海蟹を食べていましたが、この時初めて上海蟹をうまいと感じました。これが本当のあの有名な上海蟹なのだと思いました。そして本場の陽澄湖で食べた上海蟹は観光客向けのニセモノの上海蟹ではなかったのかと疑ったものです。

→関連記事:中国のお役人さんにごちそうされて

上海蟹の反乱にたじろぐ

上海蟹をスーパーで買って上海蟹を自分で調理したこともありました。スーパーで紐で十字に縛って1匹で15元の上海蟹(値札には当然ながら大閘蟹と表記されています)を購入しました。一匹では食べた気がしないので蟹好きな私は3匹まとめて買うことにしました。

マンションに持って帰って、蒸し器など重宝なものは当然ありませんので、大きな鍋に水を少し入れその上に3段に重ねてカニを置いて蓋をしてガスをひねりました。あとは沸騰するのを待つだけだと厨房を離れて食堂のテーブルでノートパソコンを見ていた時のことです。厨房で何やらガサゴソと音がしたかと思ったらだんだんと音が大きくなり、何かが物に激しくぶつかるような音になってきました。

何だろうと厨房に入ってみても何も起こっていません。でも火にかけた鍋がから音がしているようでした。恐る恐るふたを開けるとなんと3匹のカニがハサミと足をばたつかせて暴れまわっているではありませんか。

私は日本での習慣でその蟹たちは既に死んでいるものと思っていたのですが、カニは生きたまま売られていたのでした。紐で縛られていたのはカニを持ちやすくしているいるのだろうぐらいにしか考えていませんでしたが、加熱したときに暴れないように手足を縛っているのだとその時理解しました。

鍋に入れる前に、着色された紐と一緒に蒸すのを避けるためにほどいて取り除いておいたのですが、その時カニは生きているそぶりは微塵も見せず、一匹ずつ鍋に入れたのに生きていることに全く気付きづきませんでした。知っている人が傍にいたら紐をほどいた時点で、なにを馬鹿なことをやっているのだと大笑いして止めたでしょうが、知らないということは恐ろしいことです。これが相手がカニではなくもっと大きな生き物だったら大変なことになっていたかもしれません。

私は慌てて火を止め、鍋のなかの暴れているカニを呆然と見つめました。そして鍋から這い出して部屋中を狂ったようにはい回る光景が一瞬頭をかすめ、恐怖に戦(おのの)いて蓋を閉め上から強く押さえつけました。しばらくは暴れていたカニたちも鍋の熱が下がるにつれ徐々に動きが緩慢になり、ついには音も当たる衝撃もしなくなりました。鍋がほぼ覚めるのを待ってふたを開けみるとカニたちはそれぞれの形で動かなくなっていました。恐る恐るカニに触ってもピクリともしません。

私は慎重にカニたちを鍋から取り出し、伸びたハサミと足をすぼめて重ねて再び十字にひもで縛りました。カニたちはまるで訓練でもされているように従順で、されるがままになっていました。元の状態に戻ったカニたちを鍋に入れ水を足して蓋をしてから「ごめんね」と言って再びバーナーに点火しました。

蒸し上がった上海蟹

 

やがてお湯の沸騰する音がして蒸気が蓋のあいだから吹き出しましたが、カニたちは手足を縛られて観念したのかコトリとも音を立てませんでした。20分ほどそのままにしてから鍋のふたを開けると、カニたちは入れられた時の姿勢のままで深い緑色だった甲羅を真っ赤に変化させていました。その鮮やかな赤色はカニたちの怒りの色に思えました。

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