中国の風習

中国で出会った物を乞う人々

投稿日:4月 25, 2017 更新日:

私は日本で物乞いを見た経験がありません。遠い昔の記憶で傷痍軍人を見たような気がしますが、或いはテレビのドキュメンタリーか何かで見た記憶が長い年月の末に実際に見たと思い込んでいるだけかもしれません。一方で私は人にものを施(ほどこ)すということはしたことがありませんし、これまで募金というものにも応じたたことはありません。これかからもするつもりもありません。

募金をしたことで、何か世の中のためになることをしたかのように思うのがいやなのが理由です。いつの世でも、どこかに必ず不幸な人がいて経済的な支援を必要としていることは事実です。たしかに自分がそれを失ったことでたいした影響もない程度の金額を提供することで、その人たちに何かしらの助けになることはあるでしょう。しかし、それを1度すれば、それ以降いつもしなければならないことになってしまいます。この前の募金は大変不幸なことだったけれど今回の不幸はそうでもないから募金はやめておこう、と判断することは事実上困難であり、窮境まで考え詰がしてしまうのです。

考えすぎかもしれませんが、募金をすることでその不幸が起こっている原因を解決することにはならないのは明らかですし、不幸な人へのわずかな援助をすることでその問題に対する免罪符を得たような気持ちになるような気がします。その免罪符を得て心の安定を得るよりは、募金を拒否することでその問題を自分のものとしてとらえ、自分の無力さを覚る方がよいと思えるのです。もちろん、これらのことは私の個人的な心情を言っているわけであって、募金をしている人たちを否定しているわけでは決してありません。



日本で、物乞いに出合ったことはありませんが、もしあったとしてもやはり恵まれない人に施(ほどこ)しをするという行為はできないと思います。一度、人に乞われてお金を提供したことはありますが、施しなどと言うものではありませんでした。それは東京の山手線の駅で切符を自動販売機で買った時の話です。

まだスイカなどの電子カードが普及する前の話ですので、切符の自動販売機の前には長蛇の列ができており時間をかけて切符を買ったのものです。その時もも、やっと自分の番が来て百円玉を挿入口に入れようとしたその時に横からいきなり「その百円円くれませんか」との声と同時に手が出されたのです。私は咄嗟のことなのと、その言い方が実に自然だったために、「あっ、そう?」と言ってその手のひらに百円玉を置いて、別の百円玉を財布から取り出して切符を買いました。その人物の顔も見ないで当たり前のようにお金を渡してしまったので、施しをしたというような感覚はありません。相手に考える暇もなく、また警戒心も与えることなく絶妙なタイミングでしたので今思うと実にうまい物乞いだと感心しています。

 

中国で最初に物乞いに出会ったのは浙江省にある有名な寺院の阿育王寺に観光旅行した時でした、杖をついた老人が寺の入り口近くで通りかった観光客に無言で人に器を差し出すのでした。その次は住んでいる上海市郊外の街中の通行人の多い通りで男の人が器を前において正座しているのでした。いずれも気が付かないふりをしてや通り過ぎましたが、、或る時地下鉄の中で器を手に回ってきたときは驚いたと同時に逃れようもなく、目をつぶって寝た振りをするしかありませんでした。

大通りで見た信じられない光景

或る時、街中の大通りを歩いて道の先に布団が敷かれているの見て不思議に思い目を凝らすと、布団から頭と足がはみ出しているのに気が付きました。頭の毛は長くて真っ白で寝ているのは老婆のように見えます。そしてその横には40歳前後と思われる男の人が、器を前において正座しているのが見えました。

私は観てはいけないと思う心と、よく見たいという衝動の葛藤の中で、辛うじてその前を通り過ぎました。病気の年老いた母親の看病に疲れた息子ということで同情を買おうとしているようなのですが、道端に布団を敷いて寝た老母を晒してお金を乞うというその演出のすさまじさに驚きました。そしてほとんどそれを風景の一部のように無視して歩く中国の人々にも驚かされました。

中国の現実を浮き彫りにした人たち

或る時、上海市の中心街を中国の友人と歩いていた時のことでした。ある大きな交差点に差し掛かったとき、信号機の下あたりで10人ほどの人だかりができていました。

丁度赤信号で止まったので、何だろうと人の肩越しに覗いてみますと一人の若い女性が正座していてその前の地面に白い大きな紙が広げあった。そこには細かく文字が書かれていたので何が書かれているのか読もうとした時、一緒に歩いていた友人に腕を引っ張られました。信号が変わったので行こうというのです。

私はいや少し待ってほしいというと、「そんなものは見なくていい」といつもの友人らしくない強い口調でいうので、止む無くその場を離れました。辛うじて読めた文字は中国語で「私は妊娠したが・・・」というくだりの文字だけでした。

何カ月か後に別の路を一人で歩いているときに、また同じく人だかりができているので覗き込んでみますと、今度は男性が立て看板を背に何か訴えています。

看板には長々と文章が書かれていて、ところどころに写真が張り付けてある手の込んだものだが、読んでみると地方から家族で上海に出て来てからこのかた、どんな大変な目に合ってきたかを連綿とつづられているのでした。

そこにはやはりお金を入れるためと思われる器がおいてあった。先日友人が読むのを止めたのも多分同じような、自分の悲惨な状況を訴えてなにがしかの金銭を求める行為であると思われます。中国人の友人からすれば、それらは中国の恥部であり、外国人には読ませたくない内容であったものだと思われます。

若い女性に声をかけられた時の話

またある時、別の友人と日中繁華街を歩いているときに、一人の若い女性に話しかけられた時がありました。こぎれいな服装もしていて、表情も普通の女の子といった感じなので、道でも訊かれるのかと思い「何ですか」というと、「食事をごちそうしてくれないか」と悪びれる様子もなく言うのでした。

私が返事に詰まっていると、先の方に歩いて行っていた友人が慌てて戻ってきて私の腕を引っ張っり「かまうな」というのである。更に何かを訴えようとしている彼女から私を引き離して歩き始めた友人が説明するには、彼女たち(と複数形でいうのでした)は地方から出てきたのはいいが、すぐに仕事もなく、お金もないのでああやって食事をねだっているのだといいます。

食事ぐらいはいいだろうと思うと間違いで、一度、受け入れる態度を示すと次から次と要求を絡めて来て始末に負えないというのが友人の説明であった。ごく普通の娘さんにしか見えなかったが、そんなものかと思うしかありませんでした。

日本の言葉に「乞食と役者は3日やったらやめられない」というのがありますが、人の善意や優越感を上手にくすぐれば、楽をして生活の糧が得られ、自由気ままな生活を送ることができるるという蜜の味を一度覚えたものは、一日中汗水流して働いてわずかの収入を得ることなど馬鹿らしくなるのでしょう。

物乞いをする人たちが本当に今晩の食べるものがなくてやむを得ずやっているようには確かに見えません。どこか余裕があるように見えてしまうのも事実である。ですから、その物乞いに応えなかったことに後ろめたさを感じることもありませんでした。

GDPが日本を抜いて世界第2位といわれて(異論もあるようですが)久しい中国ですが、それを人口で割った一人当たりの名目GDPは日本の5分の1程度にしか過ぎません。しかも、上位1%の富裕層家庭が全国の3分の1以上の財産を保有しているという不均衡な富の配分状態では、国民の圧倒的多数は未だ貧しいと考えるべきでしょう。

それでも物乞いをする人々を見てあまり悲壮感を感じられないというのは、この国の人々は今よりは比較にならないほど過酷な歴史的状況の中を絶えて生き残ってきた人々であり、徐々であってもすこしづつ生活が良くなってきているという事実があるからかもしれません。

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