中国で働く人々

二人の「小鬼子」・・・・日本人の秘めたる狂気

投稿日:4月 1, 2017 更新日:

上海市の郊外の街に住んでいましたが、工業団地に海外企業を誘致していたためにすくなからず日本企業が工場を持っていました。またそれらの現地工場にサービスを提供する企業も多く進出していました。

そのような関係から日本人の駐在員や出張者も多く、さほど広くない中心地区に日本料理店が12件、日本式カラオケ店が7件もありました。日本式カラオケ店はいわゆるカラオケではなく日本ではキャバクラと呼ばれているものです。

この小さな街で日本人が起こして大きな関心を呼んだ事件がふたつありました。その一つがこの日本式カラオケ店にまつわる事件でした。

日本式カラオケ店での惨事

私の工場に出入りしていた日本企業の営業マンであるAさんは直接面識はなかったのですが、50歳前後で、おとなしく目立たない感じの人だと聞いていました。このAさんが事件を起こしました、しかも殺人です。事のなりゆきはこうです。

Aさんは日本式カラオケ店に馴染みの小姐(キャバクラ嬢)がいました。これは特に珍しいことではありません。多くの日本人駐在員が仕事での接待や同僚との付き合いでカラオケ店を利用しますので、複数の小姐と顔見知りになり、携帯電話で誘われるままに個人でも出かけるようになる人も少なくありません。

Aさんは馴染みになった小姐とお店以外でも一緒に食事したり、ショッピングに付き合って料金を払ってあげたりしていましたが、小姐は言葉巧みに要求を徐々にエスカレートさせて行き、断れない性格のAさんはかなりのお金を彼女につぎ込んでしまったようです。

極めつけは、彼女は日本に行って日本語学校に通い中国の戻って日本語を活かしたまともな仕事につきたいとAさんに懇願するようになりました。そのような長期研修ツアーなるものは中国でもかなりの企画があり、盛んに宣伝もしていました。

Aさんは決して安くはないその費用を彼女の将来のためと思い無理をして出したのですが、一向に日本に向かう様子はないので問いただすと、お金を支払ったツアー企画会社が悪質で上手いことだまされてお金だけ取られてしまったと涙を流して告白したのでした。

そして今度は信用のできる有名な企画会社の募集があったので、是非もう一回援助をして欲しいとこれまた目に涙をいっぱい浮かべて懇願したので、多少疑問を感じてきたAさんでしたが、借金までしてそのお金を工面したのでした。

彼女は早速ツアー企画会社に申し込んで費用を支払ったので、あとは渡航の指示を待つだけだとうれしそうにAさんに報告をしました。

しかし、何ヶ月経っても彼女は行くそぶりを見せません。ついにAさんはある日そのツアー企画会社を訪ねて契約の有無を確認しました。そのような契約はしていないことを会社の社員に確認したあとAさんはカラオケ店に向かいました。

カラオケ店はまだ開店前の準備をしているところでしたが、店のママが例の小姐は今日は同伴出勤なので別の客と食事をしてから一緒に出勤することになっていると告げられると「少し話があるだけで、それが終わったらすぐ帰るので邪魔にならないところで待たせて欲しい」といいました。ママは常連客であるAさんの話を了解して隅のボックス席を指し示しました。

やがて、客と一緒に現れた小姐はママからAさんが待っていることを聞いて、悪びれることなくその席に赴き座って話を始めましたが、いきなりAさんはポケットからナイフを取り出し彼女の胸をおもいっきり突いたのでした。一瞬のことで誰も止めに入ることもできなかったようです。

彼女は救急車で病院に運ばれる途中で出血多量で死亡しました。Aさんは警察での取り調べに対してこれまでの経緯や動機を素直に供述し、ツアー企画会社に確認に行く際には既に家にある果物ナイフを持ち出していたことも隠さずに告げました。そして「彼女の傷が大したことがないと良いのですが」と彼女を心配して泣き崩れたということです。
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この事件に関するこれらの情報は新聞や雑誌によるものではありません。インターネットの書き込みによる情報です。上海では日刊の新聞を各家庭に配達するということはありません。新聞を買うときは街角に立っているキヨスクのようなボックス型のお店で買うことになります。

雑誌と新聞しか売っていないのですが、大抵はおばさんがひとり一日暇そうに店番をしています。そこで売っている新聞は薄っぺらいもので主に政治的な記事が多く、いわゆる三面記事のようなものはほとんど見た記憶がありません。一方インターネットでは「関係者の話では」との前書きで様々な情報が即座にアップされます。

この事件では日本人が殺人事件を起こしたということで話題になり、多くの書き込みがありました。尖閣諸島の問題もあった時期でしたので、書き込みには「小鬼子」がまた中国で大変なことをしてくれた、けしからんというものも少なからずありました。「小鬼子」とはかつて中国に侵攻した日本軍が非道の限りを尽くしたことに対する、日本人への恨みと憎しみと更には恐れの感情も含んだ蔑称です。

ホテルでの怪事件

今一つの事件はホテルの客室で起こりました。このホテルは中の上クラスのホテルで日本からの出張者が多く泊まるところです。私も最初の1か月間はこのYホテルに宿泊し会社に通いましたので、私にとっては非常に思い出深いYホテルなのですが、ある日曜日の午後に買い物をしてYホテルの前を通り過ぎた後にホテルの前には異常に興奮した人達で埋め尽くされました。

大通りに面した4階の客室の窓からホテル玄関のひさし部分に、人が落ちたのを多くの人が目撃したからです。そして窓から下の外壁にかけておびただしい血痕が付いていたようです。何も知らないで家に帰った私は翌日になってこの事件を会社の人から聞きました。事件は私がホテル通り過ぎた20分後に起きていました。

日本人が一人と中国人の男女二人の合計3人が絡んだ事件でそのうちの一人が死んだということまでは分かっているようですが、それが誰なのかはっきりしないまま時が過ぎ、日本人が殺された,いや、小鬼がまたとんでもないことをしでかしたとネットで憶測が飛び交いました。




やがて、警察関係者からの有力な情報として流れたのが次のような内容でした。

日本人(以下Bさんとします)は日本からの仕事で何度かこの街に来ていてそのたびにYホテルを常宿にしていましたが、今回の出張でもYホテルに泊まっていました。その日外出からホテルに帰ったBさんが部屋をドアを開けようとしたところ、廊下を歩いていた若い女に声をかけられました。

女は言葉巧みにBさんを誘惑し、Bさんは女を部屋に入れました。中で話をしているところを男が入ってきて、Bさんを脅かして金を出すように要求しました。いわゆる美人局(つつもたせ)です。しかし、Bさんは果敢にもそれを突っぱねました。

男はナイフを取り出し、金を出さなければ刺すぞと更に脅しをかけてきました。Bさんはそれにひるむことなく、そのナイフを取り上げようとしたのでもみ合いとなり、Bさんは腹を刺されつつも男を窓際まで追い詰めると、そのまま窓から外に投げ出しました。

男は落ちた時の打ち所が悪かったと見えて即死し、窓にはもみ合った時のBさんの血が多量に付くことになったのでした。Bさんの受けた傷は深いもので、男を投げ出したあとにその場にへたり込みましたしたが命を落とすほどではなかったようです。女はその間ただおろおろとしていただけとのことです。

この詳しい情報が出てからは他の憶測は鳴りを潜めましたので、信ぴょう性が高い情報なのだと思えました。ネットでは「日本人のスーパーマンが大暴れをした」というような見方によっては好意的ともとれる書き込みが見られるようになりました。

そして、そのBさんの年齢が62歳との情報が出たときは驚嘆の声に変わっていました。既に「小鬼子」という馬鹿にした表現はどこにもみあたりません。中国の地方では50歳でリタイヤして子供に食べさせてもらうのが普通で、60歳になれば完璧な老人といえます。62歳のBさんがとった行動は中国の人には信じられないことと映ったようです。

想像にすぎませんが、これらの事件を引き起こした二人の日本人は日本ではまじめに働いてつつましい生活を送っていたのだと思います。中国に限らないと思いますが、外国での駐在や出張では、日本でのしがらみや周りを気にする自制心から解放された気持ちになります。

まして中国では物価が上がったといっても依然として日本の4分の1の物価です。農民工の1カ月の給料分を一晩で飲んでしまうことも珍しくありません。日本でできなかったことが上海ではできるのです。

日本では陰気に黙りこくって仕事をしていた50代の同僚が、上海の駐在で人が変わったように明るくなり若い中国女性を同伴して遊びまわっていました。その姿を見て、日本人として恥ずかしいと眉を顰(ひそ)める人もいましたが、この人は今までの人生で欠落感を感じていたものをこの中国で埋めることができたのだと思いました。その人は、日本に帰国してまた無口な彼に戻って同じ仕事をしていましたが、かつての陰気さは抜け、どこか吹っ切れたように感じたものです。

AさんもBさんもそれまでは特別異常なことをしていたわけではなく、うまく処理すれば日本には何事もなかったように帰ることもできたはずだと思いますが、取った行動は取り返しができずものでそれを不可能にしていしまいました。

何がそうさせたのかは本人たちもうまく説明できないできないのではないかと思います。人にはもともと本人が気づいていない狂気が潜んでいて、多くの人はその存在に気づかないまま一生を終えるのでしょうが、なにかをきっかけにその狂気を呼び起こしてしまう人がいるのかもしれません。それは上海という街が醸し出す独特の雰囲気が関係していると思えてなりません。

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