中国で働く人々

監視カメラが映し出した中国工場での様々な出来事

投稿日:3月 27, 2017 更新日:

私が通勤した上海工場では毎日いろいろなことが起きます。日本の工場では考えられないようなことが次から次と起こり、油断ができません。そのために工場内には多くの監視カメラが設置されているのですが、その監視カメラにまつわるお話をしたいと思います。

工場には入り口が2箇所あってそれぞれに守衛所が設けられています。1つは自社だけが使用する出入口であって自社の門衛が管理しています。今ひとつの門は3社共用の門になっているので工場団地を管理している役所が門衛(中国では守衛をこう呼びます)を雇って守衛所を運営しています。

私はマンションを工場の近くに変えてからは徒歩で通勤していましたが、この工業団地で管理している門のほうが家に近いので毎日この門を通りました。通るときに軽く会釈をすると門衛のおじさんはニコニコして手を挙げ挨拶し、自動の門柵を開けてくれました。

窃盗団が盗み出したものに唖然

ある朝出勤していつもの門を通ると工場の前に何人かが集まって話をしていました。その中に総務課長の李さんがいて、ひときわ難しそうな顔をしています。話を聞くと未明に泥棒が入ったというのです。



李課長が朝来て監視カメラの映像を早送りで確認していたところ、車が1台進入して工場の周りを数回廻ったあとに止まって数人で何かを荷台に積んで走り去った映像が残されていたので、現場を確認しているところでした。

私も監視カメラの映像を見ましたが、3棟ある工場の北側の工場の車の出入り口の前に1台の車が止まっており、何かを積み込んでいる様子が映し出されていましたが、それが何かは車の陰になっていて見えません。

出入り口はシャッターが下りたままで、シャーターが開けられた様子はありませんでした。何を盗んで行ったのかその時点では見当が付きませんでした。


やがて、連絡を受けた警察がやってきました。いつも定期的に工場に巡回してくれる主任警察官が監視カメラの映像を確認したあと、実地検分と社員や工業団地管理の門衛などに事情聴取して、映像のデーターを持って帰りました。

映像には車のナンバーがはっきり映っていましたが、多分盗難したものだろうから調べても分からない可能性が高いというのが警察官の見解でした。また。門衛のおじさんはそのような車は見ていないし、門は開けていないといっているそうです。

こういう外部からの侵入者による事件があったほとんどの場合は門衛が手引きしていると考えるのが中国での常識です。

もう一箇所の自社の門からその工場までは車で入れない地理的構成なので自社の門衛が絡んでいる可能性はありませんから少し安心しました。工業団地を管理している役所はこの報告を聞いて門衛のおじさんをその日のうちに解雇してしまいました。

さて、李課長から盗まれたものが何であったか判明したとの報告がありました。それはなんと空のガスボンベ3本だったのです。私は思わず「空のガスボンベを盗んでどうするのだ」と聞き返してしまいました。

李課長の説明によるとボンベは結構いい値で売れるのだそうです。多分もっと金目のものを物色したのが何もないので、鎖で固定されていたボンベを持って行ったようです。工具で断ち切られた鎖の目新しい切り口を私も確認しました。

後日、警察から車のナンバーはやはり盗まれたもので、それからは何も分からなかったとの連絡があっただけでこの事件は結局そのままになってしまいました。このような窃盗事件はいたるところで起きているようなので、警察もいちいち深い追いしている余裕はないようです。

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守衛所のトイレに隠されていたあるもの

工場内には実に55個の監視カメラが設置されており、守衛所と総務の事務所で映像を管理していました。全体の安全管理システムは日本の有名な企業の現地法人が請負っていました。あるときの休日に守衛所に届いている日本の新聞を取りに行ったときに話です。

ついでに監視カメラの映像を確認していて変な物音がすることに気が付きました。守衛所の中にあるトイレの様子がなんとなくおかしいので中を開けるように言いました。当直の守衛はあきらめたような顔でトイレのドアを開けましたが、そこに見えたものはなんと中ぐらいの大きさの犬でした。

トイレの中は敷物があったりえさ箱があったりで明らかにここで犬を飼っていることを示しています。大抵のことは見てみぬ振りをしてきた私ですが、思わず「ここで犬を飼ってはいかん」と日本語で叫んでしまいました。

重要ポストの社員を採用するときは日本人が面接をして直接決めますが、それ以外は総務や人事の課長に任せてあります。既に社員になっている人から親戚などの推薦があった場合は優先的に採用になっているようですがこの辺はあまり細かいことは言わずに目をつぶります。

赴任当時、門衛は7人ほどいて、既に問題を起こした数人が解雇になっていましたが、殆どの人が他の社員の因縁者が採用になっているようでした。そのほうが問題を起こしにくいと考えられています。

彼らを束ねる隊長の馬さんは好青年で隊員の中に弟もいて信頼が置ける人物でした。彼が社内の女性と結婚したときの披露宴には私も招待されていきましたが、新婦が余りにも美人なので、招待された日本人スタッフの間でみんなであんな美人がうちの工場にいたかと話題になりました。彼女は20歳を既にいくつか過ぎていましたが、そのとき生まれて初めて化粧をしたとのことです。工場の女性は1000人以上いますが日本と違って化粧をしている人はひとりもいません。それでも十分きれいな人が大勢おり、その人たちが化粧をすると一段と美人になるというわけです。

馬さんがいたお陰で私の赴任中は門衛が引き起こした問題はありませんでした。守衛所の犬のことは、あとで馬さんにそういうことがあったとだけ話をして、誰にもそのことは話をしませんでした。その後犬を見かけることはありませんでした。

疑われた女性班長の涙

さて、何故そんなに監視カメラが多いかというと、盗難が多いからです。工場は電子部品を製造していますので、金属を大量に使っています。この金属くずが高く売れます。

特に貴金属を使っている部品がありますのでそれは屑とはいえ大変高値で売買されます。

監視カメラは入門時、着替えするロッカールーム、職場の出入り口、退社するときの経路などあらゆるところに設置されており従業員の1日の行動が全て監視されています。監視カメラが設置されていないのはトイレぐらいでしょう。

あるときに、貴金属の部品を扱っている職場の女性班長が金属屑を盗んでいるとの疑いが浮上しました。金属の材料が投入された量と製品量とはパソコンで管理されており、発生した屑は厳密に計量されていましたが、最近どうもその班だけそれらの数値が合わないことが報告されたために、その班の構成員の挙動を監視カメラの映像を解析することになりました。

そしてその班の班長が朝入門するときに手に持っていたショルダーバッグが帰るときに大きく膨らんで背負っていることに監視カメラの映像を確認していた門衛が気づいたのです。

それだけでは、何とでも言い逃れが出きるだろうということで、しばらく泳がしておいて動かない証拠を掴んだ時点で事情聴取をしようということになりましたが、その後、警戒したのかその後怪しげな行動は確認できませんでした。

痺(しび)れを切らした門衛たちは、彼女が勤務中に彼女のロッカーを開けて中を確認する手段に出ました。そして貴金属屑の小さなカスを採取したのでした。

これが動かぬ証拠となりましたが、本人が事実を認めず、班長でもあるので本人を呼んで幹部社員による査問委員会が開かれることになりました。幹部会の構成は日本人4割と中国人が6割ぐらいで、通常定例で行なわれる幹部会は日本語を使いますが、このときは全て中国語で行なわれ、通訳もされませんでした。

殆どの日本人はこのような複雑なやり取りの中国語を聞き取れないので、沈黙しているしかありません。もともとこのような懲罰に関することは中国の倫理観にも関わることなので、日本人が日本の倫理観や価値観で判断すると不満や恨みを残すことがあり、中国の人たちの処罰は中国の人たちの判断に委ねるというのが不文律になっているのです。

仕事に関するルールは日本のルールに従ってもらわないと品質が保てないことになるので徹底させることに労力を使いますが、それ以外の事に関しては、ある程度、郷に入っては郷に従え的な対応が必要になります。

見方によってはこのような微妙な問題と直面することを出来るだけ避けて、現地の慣習に任せるという日本的な感覚が働いた結果でもあるといえます

日本人からは質問が出ないので通訳の必要はなく中国語のやり取りだけが会議室に響き、重苦しい空気の中で査問が行なわれました。査問者は不審点を一つ一つ挙げていき説明を求めます、当の女性班長は何もしていない、ロッカーの金属屑は誰かの策略だといっているようでした。

彼女は目に涙を溜め、自分が如何にこれまでまじめに仕事に取り組んできたかを訴え始めました。時々日本人にも目をむけ何かを訴えてきますが、目のあった日本人はあわてて目を伏せるといったことがあり、時間がとても長く感じられたものです。

査問は30分ほどで終わり、結論はその場では出さず本人は職場に戻されました。結局本人は解雇になり、そのほか同じ班の2人も同時に解雇になりました。

作業は相互チェックが入るようにしてありますので単独での不正は出来ないシステムとなっており、班長が他の班員を抱きこんでの不正を思われました。どこまで証拠が揃ったのか、他の二人は自供したのか詳しくは確認しないまま後から回ってきた処分決定書にサインをした覚えがあります。

内部の不正行為は監視カメラで監視しますが、不正を行なうものはその死角を付いてきますそこで更に監視カメラの台数を増やすということになり監視カメラの数は増える一方です。やはりまじめに仕事をしている人をリーダーに格上げし、給料も大幅に上げるのが一番の不正防止になるように思えます。

ある程度の利益供与は慣例のうち?

さて、内部の不正は金額的にもたいしたことはありませんが、金額が大きいのは外部と結託した不正です。材料の購入や廃棄物の払い出しなどで外部の業者に便宜を図る見返りに金銭を受け取ることも少なからずあります。これらの発覚は殆どが告発からです。

日本人の携帯にショートメールで告発文が送られてきます。日本人の携帯番号は緊急時の連絡先として工場内に配布されているので誰でもが直接に日本人連絡できます。

こちらから相手先に連絡をとっても繋がらないものと本人が出る場合もあります。告白の内容は決まって誰それが出入り業者の連絡を取り合って便宜を図っているというもので、中には両者の密会の場所まで明らかにしている場合もありますが、証拠を掴むまでにいたるものは余りありませんでした。李課長に言わせると告発は正義感からくるものではなく、妬(ねた)みによるものだろうとのことです。

出入り業者との間に多少の差はあれリベートの受け取りがあるのは中国社会では常識と思わなければなりません。ただそれがある限度を越えて行なわれている場合は放置はせず、契約しているコンサンタルタント会社に相談のうえ対処する形を取ります。

 

監視カメラは盗難ばかりではなく思わぬことの検証に使われ使われることがあります。それはけんかです。けんかはよく起こりますがその殆どは女性同士のけんかです。女性が圧倒的に多い職場ですので、女性同士が多いのは当然といえば当然ですが結構派手なけんかがあります。

ある取っ組み合いのけんかでは一方が髪の毛を掴まれて振り回されたために相当数の毛が抜けてしまいましたので看過できず調査することになりました。

監視カメラにそのけんかの様子が映っていたために確認したところ、怪我をしたほうが先に履いていた作業靴を脱いで相手に殴りかかったことが分かり、喧嘩両成敗ということで二人とも解雇になってしまいました。

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