上海の生活

中国で深夜のバイクタクシーに乗って体験したことと思ったこと

投稿日:3月 8, 2017 更新日:

上海で日本にはないバイクタクシーに乗ったことがあります。それも深夜に。その時の体験をお話ししましょう。

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その日は上海市内の中心にある劇場で演じられる小さな劇団の演劇を観に行きました。

劇の内容は密室で起こる殺人事件をコミカルに描く推理劇でした。特にその内容に惹かれてチケットを購入したわけではなく、たまたま演っていたものを観たのにすぎません。

肉声の中国語を集中して聞きながらストリーを追うのは中国語のいい勉強になると思い、演劇公演を探していたところ、この劇があったのであらかじめチケットを買っておいたという訳です。

上海の演劇小ホールは日本の映画館みたい

この劇場は上海市で最大の劇場で大ホールから小ホールまで数多くのホールがあります。演劇をやっていたのはいくつかある小ホールの一つでした。

小ホールは日本の最近の集合映画館Movixのような造りでした。チケットにあるホール番号の場所に行くと扉がなく、入ると暗い通路があるので、少し歩くと舞台の横に出ます。舞台を背に階段を上りながら気に入った席を探して座り、時間が来るのを待っていると順次客が入ってくるのが正面から見えます。客は結局30人程度で全員が若者で年配の人はひとりもいませんでした。

劇の会話は正直言ってよく聞き取れませんでした。会話で笑わせるところは意味が分からなくとも観客が笑うので合わせて笑っていましたが、ストーリーはなんとなく劇の流れで推理していました。推理劇のストリーを推理するということにもどかしさを感じましたが、生の中国語劇を観たという満足感はありました。

タクシーを使わずに地下鉄で帰ることに

劇は休憩を挟んで2時間ほどで終わり、時間はすでに10時を過ぎていました。いつものタクシーを拾って買帰るところを地下鉄で帰ろうと考えました。私の住んでいる嘉定までの時間はタクシーも地下鉄も1時間程度かかり時間的な差はありません。料金は120元と3元という大きな差はありますが、特段節約しようということではなく、単に深夜の地下鉄も乗ってみたいという気が起こったのです。




地下鉄を乗り換えて嘉定方面の電車の始発駅に着いたときはすでに最終の電車を残すだけとなっていました。何とかそれに間に合って、半分以上を過ぎたころに車内の案内がありました。この12号線は途中で二股に分かれていて、もう一つの方面に行く人は次の駅で乗り換えなさいというアンナがいつもあるのですが、その放送と思っていました。

乗り違えたことに気が付いたときはすでに遅し。

その駅も過ぎていくつ目かの駅が過ぎたあたりおかしいことに気づきました。駅の名前がどうも聞き覚えがないのです。どうやら、先ほどの駅で乗り換えなければならなかったのは自分の方だったと気が付いたのです。しかし時はすでに遅く、次の駅で降りても戻りの電車はすでにないとしか思えません。私は観念して終着駅までいく行くことにしました。その駅から私の住む嘉定まではタクシーで100元程度で行けるはずでした。

しかし、観念した私に邪心が芽生えてきました。終電の終着駅でのタクシーの奪い合いの光景が目に浮かんだのです。日本のように並んで順番にタクシーに乗る、待機していたタクシーがなくなったらおとなしく順番に次のタクシーがくるのを待つという風にならないのが中国です。人よりも先にタクシーを拾えるようにと先へ先へと歩いていきます。自分が乗るべきタクシーが先に行った人に拾われていくのを無残な気持ちで眺めている自分の姿が頭をよぎりました。

そこで考えたのが、終着駅の一つ手前の駅で降りるという方法でした。それならば降りる客も少なくタクシーの奪い合いもないだろうと思ったのです。

しかしそれは大きな間違いでした。思ったように降りた客は数人と少なかったのはよそうどおりでたが、その駅にはなんと1台のタクシーも待っていない、タクシー乗り場もないような駅だったのです。

近づいてきたモーターバイクの若者

いまさらながら自分の不運というか浅はかさに消沈して、降りるはずだった終着駅の方面に線路伝いの道路を歩き始めました。もしかしたらタクシーが通りかかるか戻りのタクシーでもあるかもしれないという淡い期待は少し道路を歩いているうちになくなってしましまいました。かなり広い道路でしたがタクシーどころが車自体が走っていないのです。

私は絶望的な気持ち終着駅までどのくらい見当もつかず歩いていたとき、走ってきた1台のモータバイクが私の横に止まりました。電動バイクは音もなく来ますがモータバイクは爆音で近づいてきたのがわかります。バイクに乗っていたのは頑丈そうな若者で、ヘルメットをとりながらどこまで行くのかと聞いてきました。

これが話に聞いていたバイクタクシーかと思いました。もちろんバイクのタクシーなど中国でも認められていませんのでもぐりの営業なので、通常なら聞こえない振りをして通り過ぎるところですが、その時は場合が場合なので思わず嘉定までの値段を聞いてみました。すると30元でいいというのです。もっと吹っかけてくるかと思ったのですが思いのほか安かったので頼むことにしました。

安かったから乗ったというより、他に方法がない、これに頼るしかないので乗ったという方が正しいでしょう。

後部に私を乗せたモーターバイクは車も人の気配のない広い道路を爆音を轟かせて疾走していきます。やがて街中を過ぎて闇に包まれた森の中に入ったとき、少なからず後悔の念が襲ってきました。ここで何かが起こって大声を出しても誰の耳にも届かないだろうと。その何かを考えまいと思いながらも、どこの馬の骨ともわからない若者にしがみついている自分はいったい何をしているのだろうと思わずにはいられませんでした。どこをどう間違えてこうなったのだろうか。

絶望感にさいなまれながらも見知らぬ外国の若者に運命を預けるしかなかった時間はいつ終わるか分かららないほど長く感じました。やがて、人気はありませんがなんとなく見知った街並みが見えてきたときは少し信じられない気がしたものです。嘉定の街角に差し掛かったのでした。

若者が道案内を乞い、それに答えて何度か角を曲がるうちに見慣れたマンションの前にたどり着いたときは表現できないほど安堵感を覚えました。バイクから降りた私の身体は緊張していたためか単に30分も必死にしがみついていたためなのかガチガチに硬くなっていました。

日本人だと最初に名乗っていたらどうなっていたか

私は財布の中から30元ではなく50元硬貨を1個取り出して若者に渡し、釣りはいらない言いました。若者は不思議なものを見るような表情をして私を見てそれを受けとりました。

「再見(またね)」と言って歩き出した私の背中に向かって彼は、こう問いかけました「どこの故郷(クニ)の者だい?」。どんな時でも値切るとこが当たり前の中国でおつりを受け取らないことは考えにくいことなのです。

普段、私の怪しげな中国語を聞いた町中の人はよくこの「どこの故郷(クニ)の者だい?」の質問を投げかけてきます。外国人だとは考えず、方言の強い内陸のどこかの省から来た者だと思いこのように聞いてくるのでした。私は、いつも正直に「我是日本人」と答えることにしています。

しかしこの時は何も答えずに背中を見せたまま手を振るだけにしました。もし後ろに乗せていたのが日本人だと知ったことで彼の心の中にどのような思いが走るのか、あまり考えたくなかったからです。

部屋に帰った時はすでに12時を過ぎており、私は体をほぐしながら考えました。人は歯車の噛み合わせがちょっとずれたことがきっかけで、本人の意思に反していつの間にかのっぴきのならない状況に追い込まれてときがあり、最悪の場合はそのことで簡単に命を落とすことになるのではないかと。

その夜の私もまさにそうであって、別のバイクタクシーに乗った場合にあの真っ暗な森の中で命をとしていたかもしれないのではないかと思うのです。翌日の新聞で、自宅マンションから数十キロも離れた森のなかで一人の日本人が遺体で発見されたと報じられ、私を知る人たちは外国人の彼がなぜあのような場所にいたのか首を傾げるという場面をぼんやりと想像してしまいました。

魔がさすということはいつでも起こりうることだということを思い知った夜になりました。

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